八幡浜市で育った人から、少し変わった話を聞いた。
「子どもの頃、夏休みの宿題で、かまぼこ板に絵を描いていた」
画用紙ではない。
かまぼこ板である。
しかも、学校から板が配られるわけではなく、自宅で用意するらしい。
つまり宿題は、蒲鉾を買うところから始まる。
夏休み前、八幡浜の家庭で蒲鉾が売れる?
聞いた話によると、蒲鉾を食べ、残った板を洗って乾かし、そこに絵を描いて学校へ提出していたという。
本人は、その作品でコンクールに入賞したこともあるらしい。
本当に八幡浜市共通の宿題だったのか。それとも一部の学校や学年だけだったのか。
調べてみたが、残念ながら「八幡浜市の小学生に共通する夏休みの宿題」と確認できる資料は見つからなかった。
しかし、話の背景として非常に怪しい場所が見つかった。
怪しいのは、西予市の「ギャラリーしろかわ」
八幡浜市の隣、西予市城川町にある西予市立美術館「ギャラリーしろかわ」。
ここでは1995年から、全国「かまぼこ板の絵」展覧会が開催されている。
その名のとおり、蒲鉾板をキャンバスにして描いた作品が全国から集まる展覧会だ。
第31回展では6,552点、板の枚数にして1万660枚が集まった。応募者の年齢は0歳から104歳。しかも、応募された作品はすべて展示されるという。
もはや蒲鉾板は、食べ終わったあとの廃材ではない。
立派な美術館の展示物である。
ただし、現在の展覧会は春ごろに作品を募集している。今回聞いた「夏休みの宿題」が、そのままこの展覧会への応募作品だったのかまでは確認できなかった。
学校内の独自企画だった可能性もあるし、完成した作品を学校で保管して、翌年応募していた可能性もある。
それでも「作品がコンクールに入賞した」という話を考えると、ギャラリーしろかわとの関係はかなり気になる。
ところで、なぜ蒲鉾には板が付いているのか
ここで、もっと基本的な疑問が出てきた。
そもそも、なぜ蒲鉾には板が付いているのだろう。
食品に木の板が直接付いているものは、よく考えるとかなり珍しい。
紀文食品によると、魚のすり身は柔らかいため、製造中に形が崩れないよう板に載せて作られるという。板は単なる容器ではなく、蒲鉾を支える土台なのだ。
さらに木の板は、蒲鉾から出る余分な水分を吸収する役割もあるとされる。
食べやすくするための取っ手ではなかった。

蒲鉾板に「標準サイズ」はあるのか
せっかくなので、蒲鉾板の大きさや厚さも調べてみた。
ホームセンターの木材のように、全国共通の規格があるのではないかと思ったからだ。
しかし、意外にも「蒲鉾板は何ミリ×何ミリ、厚さ何ミリ」と一言で示せる公的な標準規格は見つからなかった。
全国「かまぼこ板の絵」展覧会でも、蒲鉾のメーカーや板の大きさは限定されていない。複数の板を組み合わせた作品も応募できる。
どうやら、すべての蒲鉾が同じ板に載っているわけではなさそうだ。
板の大きさは、蒲鉾と機械が決める?
蒲鉾を作る機械や加工器具の世界を調べると、少し事情が見えてくる。
業務用の「かまぼこカッター」には、「126×65ミリまでの蒲鉾に対応」「標準は7ミリ幅」「カット寸法や台のサイズは特注可能」といった仕様がある。
これは蒲鉾板の寸法ではなく、蒲鉾本体を切るための寸法だ。
それでも、工場や厨房では一つの絶対的な蒲鉾サイズがあるのではなく、商品に合わせて機械や器具を調整していることが分かる。
さらに、松山市には日本キャリア工業という食品機械メーカーがある。同社の成形機は、練り製品を含む食品を金型によって成形し、厚さも調整できる。
こちらも板付き蒲鉾専用の機械ではないが、私たちが何気なく見ている練り物の形や厚みが、金型や製造設備によって作られていることがよく分かる。
蒲鉾板の大きさも、全国共通の一枚が先にあるのではなく、各社の商品や製造ラインに合わせて決められているのかもしれない。
食べ終わればゴミ。でも、業界では「包装資材」
日本かまぼこ協会は、蒲鉾板を包装資材の一つとして挙げている。
消費者にとっては、蒲鉾を食べ終われば役目を終える小さな板。
しかしメーカーにとっては、仕入れが必要な製造コストの一部である。
その板を捨てずに洗い、絵を描き、美術館に飾る。
考えてみれば、全国「かまぼこ板の絵」展覧会は、食品の包装資材を小さなキャンバスへ変える企画でもある。
宿題の正体は、まだ板の上
八幡浜市の子どもたちが、本当に夏休みの宿題として蒲鉾板へ絵を描いていたのか。
現時点では、地域全体の習慣だったと断定できる資料は見つかっていない。
ただ、八幡浜のすぐ近くには、30年以上続く「かまぼこ板の絵」の展覧会が実在する。そして実際に、蒲鉾板へ絵を描き、入賞した記憶を持つ人もいる。
少なくとも、何もないところから生まれた話ではなさそうだ。
それにしても、もし本当に板を自宅で用意する宿題だったのなら。
夏休みの宿題を忘れた子どもより先に、蒲鉾を買い忘れた親が焦っていたのかもしれない。
たぶん、愛媛の夏休みにはそんな夜があった。
参考にした情報
※八幡浜市の夏休みの宿題に関する部分は、当地で育った方から聞いた体験談をもとにしています。市内全校で実施されていたことを示す公式資料は、現時点では確認できていません。


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