※生成AIによるイメージ画像です。特定の場所を撮影したものではありません。
最近、アブラゼミをあまり見なくなった気がする。
子どもの頃、セミといえば茶色い翅のアブラゼミだった。
虫取り網で捕まえるのも、道端でひっくり返っているのも、だいたいアブラゼミ。夏の音といえば、あの油で何かを揚げているような「ジリジリジリ」という鳴き声だった。
ところが、最近よく耳にするのは、
「シャアシャアシャアシャア」
朝から猛烈な音量で鳴くクマゼミばかりな気がする。
松山の夏からアブラゼミが減り、クマゼミが増えているのだろうか。
それとも、昔の記憶が少し書き換わっているだけなのだろうか。
アブラゼミとクマゼミは、見た目も音も違う
まず、2種類の違いを簡単に整理しておきたい。
アブラゼミは、褐色で不透明な翅を持つセミ。「ジージリジリ」と、油で食べ物を揚げているような音で鳴くことから、この名前が付いたとされる。
一方、クマゼミはアブラゼミよりひと回り大きく、透明な翅と黒い体を持つ。「シャアシャア」「ワシワシ」と表現される大きな鳴き声が特徴で、西日本の市街地ではおなじみの存在だ。
姿を見なくても、鳴き声を聞けばだいたい判別できる。
そう考えると、「最近はクマゼミばかり」という感覚にも、それなりの根拠があるように思えてくる。
気のせいかと思ったら、愛媛県も調べ始めていた
過去と現在のセミの数を比べられる資料を探したところ、思いがけない情報が見つかった。
愛媛県が2026年7月から、「みんなでセミ調査」を始めている。
スマートフォンのアプリを使い、セミの鳴き声を聞いた日時や場所、写真、録音データなどを県民から集める調査だ。
対象には、アブラゼミ、クマゼミ、ニイニイゼミ、ヒグラシ、ミンミンゼミ、ツクツクボウシなどが含まれる。
調査の目的は、愛媛県内でセミが鳴いている期間と分布状況を把握し、地球温暖化などの環境変化との関係を探ること。
つまり、
「最近、セミの種類が変わった気がする」
という疑問は、単なる懐かし話ではなかった。
愛媛県も、まさに今から調べようとしているところだった。
昔の愛媛には、本当にアブラゼミが多かったのか
愛媛県では、これまでに14種のセミが記録されている。
2015年には、その名も『愛媛県のセミ』という68ページの資料も出版されている。県内のセミだけで一冊作れるらしい。
また、2014年7月に内子町の竜王公園で行われた抜け殻調査では、集まった抜け殻の大半がアブラゼミだった。
クマゼミとニイニイゼミは少数、ツクツクボウシは1個だったという。
ただし、これは松山市ではなく、内子町の一つの公園を一度調べた結果である。この記録だけで「昔の愛媛はアブラゼミだらけだった」とは言えない。
それでも、少なくとも2014年当時、アブラゼミが多数を占める場所が愛媛県内にあったことは分かる。
クマゼミが増えたのは、温暖化のせい?
クマゼミが増えた理由として、よく挙げられるのが地球温暖化である。
クマゼミは温暖な地域を好む。気温が上がることで卵が越冬しやすくなり、孵化する時期も早まる可能性があるという。
孵化が梅雨の時期と重なれば、雨で柔らかくなった地面へ幼虫が潜りやすい。結果として、生き残る個体が増えるという説もある。
しかし、話はそれほど単純ではない。
クマゼミが増えている都市では、
- 地面が乾燥している
- 土が踏み固められている
- 街路樹の種類が変化している
- 公園の落ち葉が取り除かれている
- ヒートアイランド現象が起きている
といった、温度以外の変化も同時に起きている。
気温の高い地域でも、アブラゼミとクマゼミが同じくらい生息している場所はある。
そのため、「温暖化でクマゼミが増えた」と一言で断定することはできない。
セミの種類を変えたのは、気温だけではなく、街路樹や公園、土の状態を含めた「街そのもの」なのかもしれない。
実は、聞いている時間が違うだけかもしれない
もう一つ、見逃せない違いがある。
クマゼミとアブラゼミは、よく鳴く時間帯が異なる。
クマゼミは主に早朝から午前中に鳴き、アブラゼミは昼前から夕方にかけて活発になる傾向がある。
子どもの頃の夏休みは、朝から夕方まで外にいた。
しかし、大人になると、セミの声を意識するのは朝の通勤時間や休日の午前中が中心になる。
だとすれば、クマゼミを聞く機会だけが増え、アブラゼミを聞く時間が減った可能性もある。
セミが入れ替わったのではない。
私たちの生活時間が変わっただけ、という説である。
さらにクマゼミは体が大きく、集団で鳴くと非常によく目立つ。数が同じでも、クマゼミの方が多く感じられる可能性もありそうだ。
地味だと思っていたアブラゼミは、世界的には珍しい
ここまでアブラゼミを「昔はよくいた地味なセミ」のように扱ってきた。
しかし、アブラゼミには意外な特徴がある。
世界のセミの多くは、透明な翅を持っている。
クマゼミ、ミンミンゼミ、ヒグラシ、ツクツクボウシ。身近なセミを思い浮かべても、その多くは透明、または半透明の翅である。
ところがアブラゼミの翅は、前翅も後翅も褐色で、全体が不透明になっている。
このように翅全体が不透明なセミは、世界的に見ても珍しいという。
日本ではあまりにも普通に見かけたため、特別な存在だとは思っていなかった。
私たちは、世界的には少し変わった姿のセミを、「いつものセミ」として眺めていたらしい。

ちょうど手元に、バンダイの「いきもの大図鑑アドバンス セミ02 アブラゼミ」があった。
1回1,500円。一般的なガチャガチャとしては、なかなか勇気のいる価格である。
約105ミリに大型化された精密模型で、アブラゼミ特有の褐色で不透明な翅も細かく再現されている。
松山の夏の音は、本当に変わったのか
結局、松山市でアブラゼミが減り、クマゼミが増えたと断定できる過去の比較データは見つからなかった。
個人の記憶だけなら、鳴く時間帯や音量、生活時間の変化による思い違いも考えられる。
一方で、他の都市ではクマゼミの増加が報告され、気温や都市環境との関係が研究されている。
そして愛媛県も2026年の夏から、県民のスマートフォンを使ってセミの記録を集め始めた。
答えは、まだ出ていない。
ただ、これから数年分の記録が積み重なれば、愛媛のどこで、どのセミが、いつ鳴いているのかが少しずつ見えてくるかもしれない。
子どもの頃に聞いたアブラゼミの声は、本当に減ったのか。
街が変わったのか。
それとも、大人になった私たちが、夏の午後を外で過ごさなくなっただけなのか。
2026年の愛媛では今、その答えになるかもしれない「夏の音」が集められている。
参考にした情報
- 愛媛県「みんなでセミ調査」
- 国立国会図書館『愛媛県のセミ』
- 内子町「セミのぬけがら探偵団」
- 日本生態学会・クマゼミとアブラゼミの発音時間帯に関する研究
- 京都大学「都市の温暖化とクマゼミ」
- 広島大学デジタルミュージアム・アブラゼミ
- 三鷹市・アブラゼミ
※「昔はアブラゼミが多かった」という部分は、個人の記憶を出発点としています。松山市における長期的な個体数の変化を示す資料は、現時点では確認できていません。



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