子どもの頃から、ずっと頭の片隅に残っている言葉がある。
「ソフトクムーリ」
ソフトクリームではない。
ソフトクムーリ。
たしか桜三里を車で走っていると、道路沿いにそんな看板があった。
子どもの頃なので、店の名前も覚えていない。
そこで何かを買ってもらった記憶も、ほとんどない。
でも、
「ソフトクムーリ」
という妙な言葉だけは、なぜかずっと覚えていた。

あれ、本当に「クムーリ」だった?
大人になってから、ときどき思い出すことがあった。
そもそも、本当に「ソフトクムーリ」だったんだろうか。
普通に考えれば、
ソフトクリーム
である。
車で走っている途中に見た看板だ。
一瞬しか見えていない。
子どもの頃のことなので、単純に読み間違えた可能性もある。
「クリーム」という文字を、なぜか「クムーリ」と記憶してしまった。
そんなところだろうと思っていた。
ところが最近、ふと思い出して調べてみた。
すると。
あった。
本当にあった。
本当に「ソフトクムーリ」と書いてあった
そして調べていると、思わぬところに当時の姿が残っていた。
Google Street Viewである。
過去のStreet Viewを2012年まで遡ってみると、「ロバのパン」の建物が残っている。
そして入口を見ると――
ある。
緑色の看板に、ちゃんと「ソフトクムーリ」と書いてある。
子どもの頃の記憶は間違っていなかった。
正体は桜三里の「ロバのパン」
看板があったのは、松山と西条を結ぶ国道11号、桜三里にあった「ロバのパン」。
当時の桜三里には、道路沿いにドライブインや喫茶店などがいくつもあったという。
ロバのパンもその一つで、鍋谷バス停付近の一角に店があったようだ。後年の記録でも、この場所は「ソフトクムーリが名物だったロバのパン跡」と紹介されている。
そして名前だけではない。
ちゃんとソフトクムーリを食べた人の記録も残っている。
2009年、店の閉店を惜しむ人が「ソフトクムーリも旨かった」と書いている。別の記録でも、最後に食べたソフトクリームの写真を残して店の閉店を惜しんでいる。
つまり、
看板だけのネタではなく、本当に店の名物として親しまれていたらしい。

じゃあ、なぜ「クムーリ」なのか
ここが一番気になる。
なぜ、
「クリーム」ではなく、
「クムーリ」なのか。
書き間違えた?
看板を作った人が文字の順番を間違えた?
何か別の意味がある?
調べていると、かなり有力な答えが見つかった。
2009年の記録には、書き手の友人が店のおばさん本人に理由を聞いたという話が残っている。
その答えは――
面白いから。
……それだけらしい。
さらに別の人の回想にも、店の人が「ウケ狙い」でクリームではなくクムーリと書いた、という同じ趣旨の話が残っている。
なんというか。
めちゃくちゃ納得した。
たしかに、何十年も覚えていた
もし看板に普通に、
「ソフトクリーム」
と書いてあったら。
私はたぶん、今まで覚えていない。
子どもの頃に車の窓から見ただけの看板だ。
それが、
ソフトクムーリ
だったから覚えていた。
店がなくなったあとも、写真がインターネットに残り、「あの看板を覚えている」という人がいる。
2020年代になっても、かつて「ソフトクムーリ」の看板があった場所として語られている。
もし本当に「面白いから」という理由だけで付けた名前だったのなら、
店のおばちゃんの作戦は大成功だったのかもしれない。
少なくとも一人、
何十年経っても「クムーリ」が頭から離れなかった人間がここにいる。
桜三里を走ると、たまに思い出す
今では、あの頃と桜三里の風景もずいぶん変わった。
かつて道路沿いにあったドライブインや飲食店の多くも姿を消している。ロバのパンも2009年には閉店を惜しむ記録が残されている。
それでも桜三里を走っていると、ときどき思い出す。
緑色の看板。
大きな白い文字。
そして、
ソフトクムーリ。
子どもの頃の記憶なんて、結構いい加減だ。
場所が違ったり、色が違ったり、実際には存在しなかったものまで覚えていたりする。
でもこれは違った。
本当に「クムーリ」だった。
なんだか、それだけで少しうれしい。
画像について
掲載画像は、当時の資料や筆者の記憶をもとに制作した再現イメージです。


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